ワしょう」
 と一同静まり返って居ります。

  十七

 文「うむ、聞済んでくれるか、頼みと云うは外《ほか》ではない、只今御吟味中に一寸《ちょっと》小耳に挟《はさ》んだ事だが、先役人《せんやくにん》の妾《めかけ》に子供が有るそうじゃな」
 と云いかけますと、三四人の荒くれ男が思い出したように立上り、面相変えて駈出しました。
 文「これ/\待てっ」
 三人「何《なん》ですか」
 文「何《なん》だじゃない、仮令《たとい》夫は非道な扱いをしたにもしろ、女子供に罪はない、その婦人と子供に少しでも手を出す者は棄置かぬぞ、夫が殺されて見れば嘸《さぞ》その女子供が難儀するであろう、義として助けなければ成らんから、拙者を其の妾の宅へ案内してくれぬか」
 一同「えっ、旦那、あんな奴を助けるのですか、私《わっち》やア面《つら》を見るのも小憎らしい」
 文「いや、坊主が憎けりゃ袈裟《けさ》までというのは人情だが、そこが文治が一同への頼みじゃ、何《ど》うか気を鎮めて聞済んでくれ」
 ×「然《しか》し旦那、彼女《あいつ》め以前江戸にいる時分にゃア、同じ悪党仲間で随分助け合ったものですが、此の島へ来て平林の妾になってからは、一緒になって非道なことを為《し》やがって、義理も人情も知らねえ悪婆《あくば》でござんすぜ、何《ど》うで生かして置いたからって為になる奴じゃアありやせん、寧《いっ》そ今から往って是までの意趣返《いしげえ》しに……」
 一同「そうとも/\遣付《やっつ》けろ」
 文「それをする位なら、こうして一同へ手を下げて頼みはせぬ、まア己に任してくれえ」
 ×「旦那の仰しゃる事だから一言《いちごん》でも背《そむ》きたかア無《ね》えが、本当に彼奴《あいつ》ア憎らしいからなア」
 文「それだから頼むのじゃ、何《ど》うぞ其の宅へ案内してくれ」
 ×「別段案内にゃア及びますめえ、先刻《さっき》二三人廻して縛《くゝ》って……」
 文「何《なん》だ、縛《くゝ》り上げて置いた、無法なことをするなア、そんなら仕方がない、兎も角|此処《こゝ》へ連れて来てくれぬか」
 暫く経ちますると、「助けて/\、何《ど》うかお慈悲を/\」と叫び狂う婦人を連れてまいりました。数多《あまた》の罪人が揃《そろ》って居りますのを見て、その婦人は色を失って居ります。文治は遠くより声をかけまして、
 文「これ/\手荒いことをするな、
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