キが二百|文《もん》下さいまし、後《あと》の宿《しゅく》で一口やって最早《もう》一文なしでござりやす、えゝ、もう向うへ浅貝が見えます、それから只《たっ》た二里八丁、今までのような山阪《やまさか》ではござりません、えゝ奥様え、お足から血が出ましたね」
 と二人の舁夫は煩《うる》さく附纒《つきまと》うて勧めて居ります。

  二十三

 文治はお町の足から血が出ると聞きまして、
 文「町、何《ど》うした、足が冷《ひえ》るから一寸《ちょっと》躓《つまず》いても怪我をする、大分《だいぶ》血が出るな、足袋《たび》を脱いで御覧」
 町「いゝえ、少しも痛みはしません、何《なん》の貴方、長い旅に是しきの事で然《そ》う御厄介《ごやっかい》になりましては、思ったことが遂げられませぬ」
 文「これ/\舁夫《かごや》、駄賃《だちん》は幾許《いくら》でもやるから浅貝の宿《しゅく》までやって呉れ」
 舁「へえ/\、なアに駄賃なんざア一合で宜しゅうござりやす、さア奥様お召しなせえ、駕籠の中でお足を御覧なせえまし、大した疵《きず》じゃアございやせん」
 と急いでまいりますと、程なく浅貝宿。
 文「御苦労々々もう宿《しゅく》へ来たの、此処《こゝ》で下《おろ》してくれ」
 舁「旦那え、余りお早いじゃアありませんか、此の通りの道で只《たっ》た二里八丁、二居宿《ふたいじゅく》まで遣《や》りましょう、それとも日のある中《うち》にお泊りなせえますか、ねえ奥様、如何《いかゞ》で」
 町「旦那様、貴方さえ宜しくば私《わたくし》は一宿も先へまいる方が宜しゅうございます」
 舁「えゝ旦那え、二三|日《ち》中《うち》に大雪かも知れませんぜ、雪の無《ね》え中に峠を越した方が宜しゅうござんしょう」
 文「左様か、二里三里思案したところで足しにもなるまい、舁夫、急いでやるかな」
 舁「へえ、有難う存じます、さア此の肩で棒組、確《しっ》かりしろよ」
 棒組「よし、どっこいさ、旦那少し急ぎましょう」
 文治は二居までに峠はあるまいと思いますと、此の二里八丁の路《みち》は山ばかりで中々登るに骨が折れます。さりとて途中で引返《ひっかえ》すことも出来ず、駕籠に附いてまいります中《うち》に、吹雪が風にまじって顔へ当ります。舁夫は慣れて居りますから、登るに従って却《かえ》って足が早うございます。やがて火打坂《ひうちざか》と申す処へ来かゝり
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