竄キ時、國藏と二三の奴らを頼み合い、飛んだ事をやろうと為《し》やしたところを、お前《めえ》さんに叱り付けられて思い直したお蔭で、旦那を始め私《わっち》らまで今日《きょう》の喜び、実に面目次第もござんせぬ、有難う存じます」
喜「併《しか》しあの時は宜《よ》くお止《とま》り下すった、そのお蔭には此の通り文治殿にも表向きで、お目に懸れるような仕合せになりました」
文治はそれと悟りまして、
文「ハヽア、それじゃア流罪になります時、あの万年橋で、多分そんな事だろうと思って、それとなく叱りましたが、藤原氏何かに付けて穏便《おんびん》なおあつかい、有難う存じます」
亥「えゝ旦那、もっと目出度《めでて》えことが有りやすぜ、おい友さん、此方《こっち》へ来《き》ねえ、あの桜の馬場の人殺し一件よ、あの時取った煙草入を旦那に預けて置きましたが、ありゃア友さんが蟠龍軒に売った品だという、して見りゃア御新造様のお父《とっ》さんを殺した奴は、あの蟠龍軒に相違ござんせぬ」
文「フーウム、友之助、ちょっと此処《こゝ》へ、今棟梁が申した通り、あの煙草入は確かにお前が蟠龍軒に売った品か」
友「えゝ、こりゃア私が仕立てました、高麗青皮の胴乱《どうらん》、金具は趙雲の円形《まるがた》、後藤宗乘の作、確かにも/\外《ほか》に二つとない品でござります、口惜《くや》しい事をしましたな、それと知ったら早くお上《かみ》へ訴えて、敵《かたき》を取ってやるのに、神ならぬ身の知るよすがもなく、皆さんに苦労を掛けたのは口惜しいなア」
森松と國藏は膝を叩いて
「こいつア話が面白くなって来た」
喜「いや文治殿、その蟠龍軒なら少し聞込んだことがござる、拙者|主家《しゅうか》の御領分|越後《えちご》高田《たかた》よりの便《たより》によれば、大伴蟠龍軒|似寄《により》の人物が、御城下に来《きた》りし由、多分越後新潟辺に居《お》るであろうと思われます」
文「さて/\悪運というものは永く続かぬものじゃなア、然《しか》らばお国表の様子を聞合せ、直ぐさま出立いたすでありましょう」
喜「それなら此方《こちら》に伝手《つて》がありますから、早速屋敷へ帰り、お国表を調べた上、お知らせ申す事に致しましょう」
文「それは辱《かたじけ》ない、何分《なにぶん》宜しく」
一同「さア、いよ/\面白くなって来たぞ」
と皆々腕を撫《さす
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