娘を連れて此の茶屋の二階へ上《あが》り、御酒《ごしゅ》は飲みませんから御飯《ごぜん》を上っていました。此の娘は年頃十八九になりましょうか、色のくっきり白い、鼻筋の通った、口元の可愛らしい、眼のきょろりとした……と云うと大きな眼付で、少し眼に怖味《こわみ》はありますが、是《もっと》も巾着切《きんちゃくきり》のような眼付では有りません、堅いお屋敷でございますから好《よ》い服装《なり》は出来ません、小紋の変り裏ぐらいのことで、厚板の帯などを締めたもので、お父《とっ》さまは小紋の野掛装束《のがけしょうぞく》で、お供は看板を着て、真鍮巻《しんちゅうまき》の木刀を差して上端《あがりばな》に腰をかけ、お膳に酒が一合附いたのを有難く頂戴して居ります。二階の梯子段の下に三人車座になって御酒を飲んでいる侍は、其の頃|流行《はや》った玉紬《たまつむぎ》の藍《あい》の小弁慶《こべんけい》の袖口がぼつ/\いったのを着て、砂糖のすけない切山椒《きりざんしょ》で、焦茶色の一本独鈷《いっぽんどっこ》の帯を締め、木刀を差して居るものが有ります。火の燃え付きそうな髪《あたま》をして居るものも有り、大小を差した者も有り、大
前へ 次へ
全470ページ中87ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング