奉公大切に勤めているだが、お前《めえ》さんは何処にいるだ」
大「拙者は根岸の日暮《ひぐれ》ヶ岡《おか》に居《お》る、あの芋坂《いもざか》を下りた処に」
權「私《わし》の処へは近《ちけ》えから些《ちっ》と遊びに来なよ、其の内私も往くから」
若「これ/\其様《そん》なことを云っては成りません」
權「今日は大将がいるから此処で別れるとしよう、泣く子と地頭にゃア勝《かた》れねえ」
と他の家来衆も心配して彼是云いますので、其の日は別れ、翌日大藏は權六の家《うち》へまいりましたから、權六悦びました。此の大藏はもと越後守様の御家来で、遠山龜右衞門とは同じ屋敷にいた者ゆえ、母もお千代も見知りの事なれば、
「お互いに是は思い掛けない、縁と云うものは妙だ、国を出たのは昨年の秋で、貴方も国にお在《いで》のないという事は人の噂で聞きました」
大「お前も御無事で、殊《こと》に御夫婦仲も宜し、結構で」
權「まアね、お母《ふくろ》も誠に安心したし、殿様も贔屓にしてくれるだが、扶持も沢山《たんと》は要《い》らない、親子三人喰うだけ有れば宜《い》いてえに、其様な事を云わずに取って置くが宜いって、種々《いろ/\》な物を
前へ
次へ
全470ページ中83ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング