しょう、刀は差せと云わば仕方がねえから差しますが、私だけはお駕籠の先へぶら/\往《い》きます」
と我儘を云うてなりませんが、左様な我儘なお供はござりませんから、權六も袴を付け、大小を差し、紺足袋《こんたび》福草履《ふくぞうり》でお前駆《さきとも》で見廻って歩きます、お中屋敷は小梅で、此処《これ》へお出でのおりも、未だお部屋住ゆえ大したお供ではございませんが、權六がお供をして上野の袴腰《はかまごし》を通りかゝりました時に、明和三年正月も過ぎて二月になり、追々梅も咲きました頃ですから、人もちら/\出掛けます。只今權六が殿様のお供をして山下の浜田と申す料理屋(今の山城屋)の前を通りかゝり、山の方《かた》の観物小屋《みせものごや》に引張る者が出て居りますが、其方《そちら》へ顔も向けず四辺《あたり》に気を附けてまいると、向うから来ました男は、年頃二十七八にて、かっきりと色の白い、眼のきょろ/\大きい、鼻梁《はなすじ》の通った口元の締った、眉毛の濃い好《い》い男で、無地の羽織を着《ちゃく》し、一本短い刀を差し、紺足袋|雪駄穿《せったばき》でチャラ/\やって参りました。不図《ふと》出会うと中国もの
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