せだよ」
權「詰り気に入られるようにと思ってやる仕事は出来ましねえ」
富「其様なことを云ってはいかん、何でも物事を慇懃《いんぎん》に云わんければなりませんよ」
權「えゝ彼処《あすこ》で隠元小角豆《いんげんさゝぎ》を喰うとえ」
富「丁寧に云わんければならんと云うのだ」
權「そりゃア出来ねえ、此の儘にやらして下せえ」
富「此の儘、困りましたなア、上下《かみしも》の肩が曲ってるから此方《こっち》へ寄せたら宜かろう」
權「之れを寄せると又此方へ寄るだ、懐へこれを納《い》れると格好が宜《い》いと、お千代が云いましたが、何にも入《へい》っては居ません」
富「此の頃は別して手へ毛が生えたようだな」
權「なに先《せん》から斯ういう手で、毛が一杯《いっぺい》だね、足から胸から、私《わし》の胸の毛を見たら殿様ア魂消《たまげ》るだろう」
富「其様な大きな声をするな、是から縁側づたいにまいるのだ、間違えてはいかんよ、彼処《あれ》へ出ると直《すぐ》にお目見え仰せ付けられるが、不躾《ぶしつけ》に殿様のお顔を見ちゃアなりませんよ」
權「えゝ」
富「いやさ、お顔を見てはなりませんよ、頭《かしら》を擡《あげ》ろと仰しゃ
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