急に江戸詰を仰付けられたから、母もお千代も悦びましたが、悦ばんのは遠山權六でございます。窮屈で厭《いや》だと思いましたが、致し方がありませんから、江戸|谷中《やなか》三崎《さんさき》の下屋敷《しもやしき》へ引移ります。只今は開けまして綺麗に成りましたが、其の頃梅を大層植込み、梅の御殿と申して新らしく御普請が出来て、誠にお立派な事でございます。前次様は權六が江戸着という事をお聞きになると、至急に会いたいから早々呼出せという御沙汰でございます。是れから物頭《ものがしら》がまいりまして、段々|下話《したばなし》をいたし、權六は着慣れもいたさん麻上下《あさがみしも》を着て、紋附とは云え木綿もので、差図《さしず》に任せお次まで罷《まか》り出《い》で控えて居ります。外村惣江《とのむらそうえ》と申すお附頭《つきがしら》お納戸役《なんどやく》川添富彌《かわぞいとみや》、山田金吾《やまだきんご》という者、其の外《ほか》御小姓が二人居ります。侍分《さむらいぶん》の子で十三四歳ぐらいのが附いて居り、殿様はきっと固く鬢《びん》を引詰《ひッつ》めて、芝居でいたす忠臣蔵の若狭之助《わかさのすけ》のように眼が吊《つ
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