女の名は菊といやアせんか」
縫「はい」
富「左様だろうな」
お縫|揉手《もみで》をしながら、
縫「菊という名に一寸《ちょっと》なった事もあります」
富「一寸成ったとは可笑《おか》しい隠しちゃアいかん、その菊という者は此方《こちら》にも少し心当りがあるが、親の家《いえ》は何処《どこ》だえ」
縫「はい」
富「隠しちゃアならん、お前に迷惑は掛けん、これは買入れるに相違ない、今代金を遣るが、菊という者なればそれで宜しいのだ、菊の親元は何処だえ」
縫「はい、誠にどうも恐入ります」
富「何も恐入る事はない、頼まれたのだから仔細はなかろう」
縫「親元は本郷春木町三丁目でございます、指物屋の岩吉と申します、其の娘の菊ですが、その菊が死去《なくな》りましたんで」
富「うん、菊は同家中に奉公していたが、少々仔細有って自害致した」
縫「でございますけれども、これはその自害した時に着ていた着物ではございません」
富「いや/\自害した女の衣類《きもの》だから不縁起だというのではない、買っても宜《よ》い」
縫「有難う存じます、その親も死去《なくな》りました、其の跡は職人が続いて法事をいたして、石塔や何《なん》か
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