[#「宗」は底本では「竹」]「あなたはお達者で」
竹「あなた怖い夢でも御覧なすったか、大層魘されて、お額へ汗が大変に」
宗「はい/\……お前は何うしたえ」
竹「はい、私は大きに熱が退《と》れましたかして少し落着きました」
宗「左様か、ウヽン……煩悩経にある睡眠、あゝ夢中《むちゅう》の夢《ゆめ》じゃ、実に怖いものじゃの、あゝ悪い夢を視《み》ました、悪い夢を視ました」
と心の中《うち》に公案を二十ばかり重ねて云いながら、手拭を出して額と胸の辺《あたり》の汗を拭いて、ホッと息を吐《つ》き、
宗「あゝ迷いというものは甚《ひど》いものじゃ」
四十
さて又粂野の屋敷では丁度八月の六日の事でございます。此の程は大殿様が余程御重症でございます。お医者も手に手を尽して種々《いろ/\》の妙薬を用いるが、どうも効能《きゝめ》が薄いことで、大殿様はお加減の悪い中にまた御舎弟紋之丞様は、只今で云えば疳労《かんろう》とか肺労とかいうような症で、漸々《だん/\》お痩せになりまして、勇気のお方がお咳《せき》が出るようになり、お手当は十分でございますが、どうも思うように薬の効能が無い、唯今で申せ
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