ラ鐵という名はない、鐵五郎《てつごろう》かえ」
鐵「へえ」
宗「宜しい」
鐵「御免なさい」
 と驚いて直《すぐ》に其の晩の内|此処《こゝ》を逃出して、夜通し高崎まで逃げたという。其様《そん》なに逃げなくとも宜しいのに。此方《こっち》はお竹が病苦の中にて此の話を聞き、どうか直に此処を立ちたいと云う。
宗「何うして今から立たれるものか、碓氷を越さなければならん」
 と稍《ようや》くの事で止めました。翌朝《よくあさ》になると、お竹は尚更|癪気《しゃくき》が起って、病気は益々重体だが当人が何分にも肯《き》きませんから、駕籠を傭《やと》い、碓氷を越して松井田《まついだ》から安中宿《あんなかじゅく》へ掛り、安中から新町河原まで来ますと、とっぷり日は暮れ、往来の人は途絶えた処で、駕籠から下りてがっかり致し、お竹はまたキヤ/\差込んで来ました。宗達は驚いて抱起したが、舁夫《かごや》は此処《こゝ》までの約束だというので不人情にも病人を見棄てゝ、其の儘ずん/\往ってしまいました。宗達は持合せた薬を服《の》ませ、水を汲んで来ようと致しましたが、他に仕方がないから、ろはつ[#「ろはつ」に傍点]という禅宗坊主の
前へ 次へ
全470ページ中353ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング