…何《なん》ぞ上げましょう、烟草盆の誂《あつら》えがありますから彼品《あれ》を」
忠「其様《そん》な大きなものはいけない」
岩「じゃア火鉢を一つ」
忠「いけないよ」
岩「それでは何か途中で喰《あが》る金米糖《こんぺいとう》でも上げましょう、じゃア明日《あした》私《わし》が板橋までお送り申しましょう」
祖「そんな事をしないでも宜しい、忙がしい身体だから構わずに」
岩「へえ、忰を何卒《どうぞ》何分お頼み申します、へゝゝ誠にもう私《わし》は五十八でごぜえます」
と一つ事ばかり云って、人の善《よ》い、理由《わけ》の分りません人だから仕方がない。翌朝《よくあさ》板橋まで送る。下役の銘々《めい/\》も多勢《おおぜい》ぞろ/\と渡邊織江の世話になった者が、祖五郎お竹を送り立派な侍も愛別離苦《あいべつりく》で別れを惜《おし》んで、互に袖を絞り、縁切榎《えんきりえのき》の手前から別れて岩吉は帰りました。祖五郎お竹等は先ず信州上田の在で中の条村という処へ尋ねて行《ゆ》かんければなりません。こゝで話二つに分れまして、彼《か》の春部梅三郎は、奥の六畳の座敷に小匿《こがく》れをいたして居り、お屋敷の方へは若江
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