から其の紅い処が何とも言われん」
千「御冗談ばっかり……」
長「冗談じゃアない、全くだ、私《わし》は三年|前《まえ》に家内を離別したて、どうも心掛けの善くない女で、面倒だから離縁をして見ると、独身《ひとりみ》で何かと不自由でならんが、お前は誠に気立が宜しいのう」
千「いゝえ、誠に届きませんでいけません」
長「此の間|私《わし》が……あの…お前笑っちゃア困るが、少しばかり私が斯う五行《いつくだり》ほどの手紙を、……認《したゝ》めて、そっとお前の袂《たもと》へ入れて置いたのを披《ひら》いて読んでくれたかね」
千「左様でございましたか、一向存じませんで」
 長助は少し失望の体《てい》で、
長「左様でございますかなどゝ、落着き払っていては困る、親に知れては成らん、知っての通り親父は極《ごく》堅いので、あの手紙を書くにも隠れて漸《ようよ》う二行《にぎょう》ぐらい書くと、親父に呼ばれるから、筆を下に置いて又|一行《ひとくだり》書き、終《しま》いの一行は庭の植込《うえご》みの中で書きましたが、蚊に喰われて弱ったね」

        四

千「それはまアお気の毒さま」
長「なに全くだよ、親父に知れち
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