するようなことになれば、尚更慎まねばならん、所がどうも慎み難く、己が酔った紛れに無理を頼んだ時は、手前は否《いや》であったろう、否だろうけれども性来《せいらい》怜悧《りこう》の生れ付ゆえ、否だと云ったらば奉公も出来難《できにく》い、辛く当られるだろうと云うので、ま手前も否々《いや/\》ながら己の云うことを聞いてくれた処は、夫《そ》りア己も嬉しゅう思うて居《い》るぞよ」
菊「貴方また其様《そん》な事を御意遊ばしまして、あのお話だけは……」
大「いゝえさ誰にも聞かする話ではない、表向でないから、もう一つ役替《やくがえ》でも致したら、内々《ない/\》は若竹の方でも己が手前に手を付けた事も知っているが、己が若竹へ恩を着せた事が有るから、彼《あれ》も承知して居り、織江の方でも知って居ながら聊《いさゝ》かでも申した事はない、手前と己だけの話だが手前は嘸《さぞ》厭《いや》だろうと思って可愛相だ」
菊「あなた、何《なん》ぞと云うと其様な厭味なことばかり御意遊ばします、これが貴方身を切られる程厭で其様なことが出来ますものではございません」
大「だが手前は己に物を隠すの」
菊「なに私《わたくし》は何も隠し
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