かの」
菊「はい」
とお菊は直《すぐ》に乱箱《みだればこ》の中に入って居ります黄八丈の袷小袖《あわせこそで》を出して着換させる、褥《しとね》が出る、烟草盆が出ます。松蔭大藏は自分の居間へ坐りました。
菊「御酒《ごしゅ》は召上っていらっしゃいましたろうが、御飯《ごはん》を召上りますか」
大「いや勧めの酒はの幾許《いくら》飲んでも甘《うま》くないので、宅へ帰ると矢張また飲みたくなる、一寸《ちょっと》一盃《いっぱい》燗《つ》けんか」
菊「はい、お湯も沸いて居りますし、支度もして置きました」
大「じゃア此処《これ》へ持って来てくれ」
菊「はい畏まりました」
と勝手を存じていますから、嗜《たしな》みの物を並べて膳立《ぜんだて》をいたし、大藏の前へ盃盤《はいばん》が出ました。お菊は側へまいりまして酌をいたす。大藏は盃《さかずき》を執《と》って飲んでお菊に差す。お菊は合《あい》に半分ぐらいずつ忌《いや》でも飲まなければなりません。
大「はあー……お菊先程林藏が先へ帰ったろう」
菊「はい、何だかも大層|飲酔《たべよ》ってまいりまして、大変な機嫌でございましたが、も漸《ようや》く欺《だま》して部屋へ
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