だけの者に手紙を書かせなどしたら、何も仔細はなかろう」
林「でござえますが、武士《ぼし》は窮屈ではありませんか、実《ぜつ》は私《わし》は町人になって商いをして見たいので」
大「町人になりたい、それは造作もない、二三百両もかければ立派に店が出せるだろう」
林「なに、其様《そんな》には要《え》りませんよ、三拾両|一資本《ひともとで》で、三拾両も有れば立派に店が出せますからな」
大「それは造作ない事じゃ、手前が一軒の主人になって、己が時々往って、林藏|一盃《いっぱい》飲ませろよ、雨が降って来たから傘ア貸せよと我儘を云いたい訳ではないが、年来使った家来が出世をして、其の者から僅かな物でも馳走になるは嬉しいものだ、甘《うま》く喰《た》べられるものだ」
林「誠に有難い事で」
大「ま、もう一盃飲め/\」
林「ヒエ大層嬉しいお話で、大分《だいぶ》酔《え》いました、へえ頂戴いたします、これははや有難いことで……」
大「そこでな、どうも手前と己は主家来の間柄だから別に遠慮はないが、心懸けの悪い女房でも持たれて、忌《いや》な顔でもされると己も往《ゆ》きにくゝなる、然《そ》うすると遂《つい》には主従《しゅうじ
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