「ドーレ有助《ゆうすけ》何方《どなた》か取次があるぜ」
有「はい畏りました」
 つか/\/\と出て来ました男は、少し小侠《こいなせ》な男でございます。子持縞《こもちじま》の布子《ぬのこ》を着て、無地小倉の帯を締め、千住の河原の煙草入を提げ、不粋《ぶすい》の打扮《こしらえ》のようだが、もと江戸子《えどっこ》だから何処《どっ》か気が利いて居ります。
有「え、おいでなさえまし、何でござえます」
喜「えゝ松蔭大藏様と仰しゃるは此方《こちら》さまで」
有「え、松蔭は手前でござえますが、何か当用《とうよう》か身の上を御覧なさるなれば丁度今余り人も居ねえ処で宜しゅうござえます、ま、お上《あが》んなせえまし」
喜「いや、然《そ》うじゃアござえません、旦那さまア此方《こちら》さまですと」
織「あい、御免くだされ」
 と立派な侍が入って来ましたから、有助も少し容《かたち》を正して、
有「へえ、おいでなせえまし」
織「えゝ拙者は粂野美作守家来渡邊織江と申す者、えゝ早々お礼に罷《まか》り出《い》ずべきでござったが、主用《しゅよう》繁多に就《つ》き存じながら大きにお礼が延引いたしました、稍《ようや》く今日《こん
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