、間ア悪がって……早く負《ぶ》っされよ、少《ちい》さえうちは大概《ていげえ》私《わし》が負《おぶ》ったんだ、情夫《おとこ》が居るもんだから見えして、われが友達の奥田《おくだ》の兼《かね》野郎なア立派な若《わけ》え衆《しゅ》になったよ、汝《われ》がと同年《おねえどし》だが、此の頃じゃア肥手桶《こいたご》も新しいんでなけりゃ担《かつ》ぎやアがんねえ、其様《そんな》に世話ア焼かさずに負《ぶっ》されよ」
二十四
鴻の巣の宿屋では女主人《おんなあるじ》が清藏の帰りの遅いのを心配いたして、
母「あの清藏はまだ帰《けえ》りませんかな……何うしたか長《なが》え、他の者を使いにやれば、今までにゃア帰《かえ》るだに……こら、清藏が帰《けえ》ったようじゃアねえか、帰《けえ》ったら直《すぐ》に此処《こゝ》へ来《こ》うといえ」
清「へえ、只今往って参《めえ》りました……もし、此の人は何とか云っけ、名は……」
若「春部さま」
清「うん春部梅か成程……梅さん、そこな客座敷は六畳しかないが、客のえらある時にゃア此処へも入れるだが常にア誰も来ねえから、其処《そこ》に入《へい》って居な、一旦|詫《わび》をしねえ内は仕方がねえから……へえ往って参《めえ》りました」
母「余《あんま》り長《なげ》えじゃアねえか」
清「長えって先方《むこう》で引留めるだ、まア一盃《いっぱい》飲んで往《い》けと云って、どうか船の利かないところを、お前《めえ》の馬に積んで二三|帰《けえ》り廻してくれと云っていたが、薪《まき》は百把《ひゃっぱ》に二十二三把安いよ」
主「それは宜《よ》かっけな」
清「何よ、それ何《なん》に逢いやした、それ…」
母「誰だ」
清「誰だって大《えか》くなって見違《みちげ》えたね、屋敷姿は又別だね、此処《こゝ》を斯ういう塩梅《あんばい》に曲げて、馬糞受《まぐそうけ》見たように此処にぺら/\下げて来たっけね、今日の髪《あたま》ア違って、着物も何だか知んねえ物を着て来たんだ、年い十八じゃア形《なり》い大《でけ》えな、それ娘のおわかよ、父《とっ》さまに似てえるだ」
母「あれまア何処《どけ》え」
清「六畳に居るだ」
母「あれまア早くそう云えば宜《え》いじゃアねえか」
清「遅く屋敷を出たゞよ」
母「何か塩梅でも悪くて下《さが》って来たんじゃアあんめえか、それとも朋輩《なかま》同士揉めでも出来たか、宿下《やどさが》りか」
清「それがね、お屋敷|内《うち》でね、一つ所で働く若《わッけ》え侍《さむれえ》があって、好《え》え男よ、其方《そっち》を掃いてくんろ、私《わし》イ拭くべえていった様な事から手が触り足が触りして、ふと私通《くッつ》いたんだ、だん/\聞けば腹ア大《でか》くなって赤児《ねゝこ》が出来てみれば、奉公は出来ねえ、そんならばとって男を誘い出して、済みませんから老僕《じい》や詫言をしてくんろってよ、どうかまアね、本当に好《え》いお侍《さむれえ》だよ」
母「むゝう……じゃア何か情夫《いろおとこ》を連れやアがって駈落いして来たか」
清「うん突走《つッぱし》って来ただ」
母「それから汝《われ》何処《どこ》へ入れた」
清「何処だって別に入れ処《どこ》がねえから、新家《しんや》の六畳の方へ入れて飯《まんま》ア喰わして置いただ」
母「馬鹿野郎、呆れた奴だよ、何故|宅《うち》へ引入れた、何故敷居を跨《また》がしたよ、屋敷奉公をしていながら、不義《わるさ》アして走って来るような心得違《こころえちが》えな奴は、此処《こゝ》から勝手次第に何処《どこ》へでも往《ゆ》くが宜《え》えと小言を云って、何故追出してやらねえ、敷居を跨がして内へ入れる事はねえよ」
清「それは然《そ》う云ったって仕様がねえ、どうせ年頃の者に固くべえ云ったっていかねえ、お前《めえ》だって此処《こけ》え縁付いて来るのに見合から仕て、婚礼したじゃアねえ、彼《あれ》を知ってるのは私《わし》ばかりだ、十七の時だね、十夜《じゅうや》の帰りがけにそれ芋畠《ずいきばたけ》に二人立ってたろう」
母「止せ……汝《われ》まで其様《そんな》ことをいうから娘《あま》がいう事を肯《き》かねえ、宜く考《かんげ》えて見ろよ、熊《くま》ヶ谷《い》石原《いしはら》の忰を家《うち》へよばる都合になって居るじゃアねえか、親父のいた時から決っているわけじゃアねえか、それが今|情夫《おとこ》を連れて逃げて来やアがって、親が得心で匿《かく》まって置いたら、石原の舎弟や親達に済むかよ」
清「おゝ違《ちげ》えねえ、是は済まねえ」
母「済まねえだって、汝《われ》は何もかも知っていながら、彼《あ》の娘《あま》を連れて来て、足踏みをさせて済むかよ、只《たっ》た今|追出《おんだ》してしめえ、汝《われ》ア幾歳《いくつ》になる、頭ア禿《はげ》らかしてよ、女親だけに子
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