は春部梅三郎じゃ、不調法があってお暇になり、浪人の活計《たつき》に迫り、自分も好きな所から能役者となりたいと、何うやら斯うやら今では能役者でやって居《お》るそうだ、これは祖五郎の姉だ、器量も好《よ》いがお屋敷へ帰るまでは何処《どこ》へも嫁付《かたづ》くことは否《いや》だと、皷を打ったり、下方《したかた》が出来る処から出入町人の亭主に心安い者があって、其処《そこ》にいると云うが、今日《こんにち》は幸いな折柄で、どうか又贔屓にして斯ういう事が有ったら前々《まえ/\》屋敷にいた時の馴染もあるから呼んでやってくれ」
大「これは思掛けない事で、祖五郎殿にも春部氏にも暫《しばら》く……」
 と松蔭も腹の中では驚きました。
大「えゝ、只今は何処《どこ》に」
數「いや、国へ尋ねて来た、それからま何うするにも仕方がないから、奈良|辺《あたり》で稽古をして、此方《こちら》へ出て来たので、是からが本当の修業じゃ、さア/\一盃《いっぱい》/\」
梅「松蔭殿、面目次第もない、尾羽打枯した浪人の生計《たつき》、致し方なく斯様な営業《なりわい》をいたして居り、誠に恥入りました訳で、松蔭殿にお目通りを致しますのも間の悪い事でございますが、構わんから参れと、御家老の仰せを受けて罷出《まかりで》ました、貴方様には追々《おい/\》御出世、蔭ながら悦び居ります」
祖「祖五郎も蔭ながら、貴方様の御出世は父織江がお世話致した甲斐がござると蔭ながら悦び居ります、今日《こんにち》は思掛けなく御面会を致しました、此の後《ご》共御贔屓を願いとう……斯様な御酒宴のございます節には必ずお招きを願います」
竹「松蔭さま暫く、竹でございます」
大「これはお竹さま、これは実に妙でげすな」
數「いや実に妙だ、芸者は帰したら宜かろう、却《かえ》って此処《こゝ》にいると屋敷の話も出来んから、取急いで秋田屋芸者共を早く帰せ/\」
番頭「へえ/\」
 と急に船に載せて帰しました、
數「さ、こゝへ来て昔の話をしよう、この祖五郎の父織江は福原別懇であった、忠義無二な男であったが、武運|拙《つたな》くして谷中瑞麟寺の藪蔭で何者とも知れず殺害《せつがい》され、不束《ふつゝか》の至りによって永《なが》のお暇《いとま》を仰付けられ、討ったる敵《かたき》が知れんというが、さぞ残念であろう」
祖「はっ、誠に残念至極で」
 と眼に涙を浮《うか》めてお竹と
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