んが、日外《いつぞや》あの五六年以前、大夫《たいふ》が御出府の折《おり》にお目通りを致した事がありますと申し、斯様な見苦しい処ではござるが、一度御尊来を願いたいと申して居ったので、当人も悉《こと/″\》く今日《こんにち》は悦び居ります、どうかお言葉を」
數「はゝあ、秋田屋か」
清「へえ、えゝ今日《こんにち》は宜《よ》うこそ、御尊来で、誠に身に取りまして有難い事でございます、えゝ年来お屋敷さまへお出入をいたします不調法者で、此の後《のち》とも何分御贔屓お引廻しを願います」
數「あい、秋田屋か、成程、貴公は知らんが、貴公の親父の時分であったか、江戸詰の時|種々《いろ/\》世話になった事もあった、中々立派な好《よ》い家《いえ》だ、至極面白い」
清「いえ、見苦しゅうございまして、此の通り粗木《そぼく》を以て拵《こしら》えましたので、中々大夫さまなどがお入来《いで》と申すことは容易ならんことで、此の家《いえ》に箔《はく》が付きます事ゆえ、誠に有難いことで」
數「いや/\、格別の手当で辱《かたじけ》ない、あい/\、成程、これは中々立派な茶碗だな、余程道具好きだと見えるな」
大「はい、好《よ》い道具を沢山所持して居《お》る様子でございます、今日《こんにち》は御家老のお入来《いで》だと、何か大切な品を取出した様子で、なに碌《ろく》なものもございますまいがほんの有合《ありあい》で」
數「いや中々|好《よ》い茶碗だ」
大「えゝ道具は麁末《そまつ》でござるが、主人が心入れで、自ら隅田川の水底《みずそこ》の水を汲上げ、砂漉《すなごし》にかけ、水を柔《やわら》かにして好《よ》い茶を入れましたそうで」
數「成程それは有難い、其処《そこ》が親切というもので、茶はたとえ番茶でも水を柔かにして飲ませる積りで、自身に川中まで船で水を汲みに往《ゆ》く志というものは、千万|金《きん》にも替えがたく好い茶を飲ませるより福原|辱《かたじけ》なく飲む」
大「えゝ恐入りました事で」
數「大藏、立派な菓子を取ったの」
大「いえ、どうも甚《はなは》だ何もございませんで、此の辺は誠にどうも……市ヶ谷から此処《これ》へ出張《でば》りますことで、好《い》い道具や何かは皆|此方《こちら》の蔵へ入れ置きますという事で」
數「成程、火事がないから道具の好《よ》いのを運んで置くか、それは宜かろう」
大「今日《こんにち》は何も御馳走
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