すことじゃ」
番「でございますか、なにほうず[#「ほうず」に傍点]は出来ます」
數「何を申す」
番「へい、船の上をずる/\何時《いつ》までも曳《ひ》いているような長いものをほうず[#「ほうず」に傍点]と申しますそうで」
數「いや中々の博識《ものしり》じゃ、うふゝゝ面白い男だの、此の泉水《せんすい》は潮入《しおいり》かえ」
番「へえ何と…」
數「いやさ此の泉水は潮が入《はい》るかえ」
番「へえ、何と御意遊ばします」
數「潮入りかというのじゃ」
番「へえ/\只今差上げますあの誰かお盆へ塩を持って来て上げな、どうも御癇癖《ごかんぺき》だから、お手をお洗い遊ばすのだろう、へえお塩を」
數「何を持って来るのだ、此の泉水は潮入かと申すのだ」
番「へえ、左様でございます」
大「何卒《どうぞ》これへ入らっしゃいまし」
數「うん岩越、ひょろ/\歩くと危いぞ池へ落《おっ》こちるといかん、あゝ妙だ、家根《やね》は惣体《そうたい》葺屋《ふきや》だな、とんと在体《ざいてい》の光景《ありさま》だの」
大「外面《そと》から見ますと田舎家《いなかや》のようで、中は木口を選んで、なか/\好事《こうず》に出来て居ります」
數「其の許《もと》は斯ういう事も中々|委《くわ》しい、私《わし》はとんと知らんが、石灯籠《いしどうろう》は余りなく、木の灯籠が多いの」
大「えゝ、これはその、野原のような景色を見せました心得でございましょうか」
數「あ成程、これは面白い/\……此処《こゝ》から上《あが》るのか、成程玄関の様子が面白く出来たの、入口《いりくち》かえ」
大「これからお上《あが》り遊ばしませ、お履物《はきもの》は私《わたくし》がしまい置きます」
數「これは好《よ》い席だ」
大「さゝ、是へどうぞ/\」
 と松蔭が段々案内をいたし、座敷の床の前へ褥《しとね》を出し、烟草盆や何か手当が十分届いて居ります。
大「どうぞ此処《これ》へお坐りを願います」
數「余り好《よ》い月だによって、縁先で見るのが至極宜しい、これは妙だ、此の辺は一体隅田川の流れで……あれに見ゆるのは橋場の渡しの向うかえ、如何《いか》にも閑地《かんち》だから、斯ういう処は好いの、えゝ一寸《ちょいと》秋田屋をこれへ」
大「えゝ御家老これが当家の主人秋田屋清左衞門と申します、年来お屋敷へお出入を致すもので、染々《しみ/″\》未《いま》だお目通りは致しませ
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