ねえ、其の中《うち》に御用の間を欠いた、やれ何《なん》の彼《か》のと廉《かど》を附けて長《なげ》え間お役所へ私は引出されただ、二月《にぎゃつ》から四月《しがつ》までかゝりましたよ、牢の中へ入《へい》ってる有助には大層な手当があって、何だか御重役からお声がゝりがあるって楽《らく》うしている、私は押込められて遠慮だ/\と何を遠慮するだ私の考《かんがえ》では遠慮というものは芽出度い事があっても、宅《うち》で祝う所は祝わねえようにし、又見物遊山非番の時に行きたくても、其様《そん》な事をして栄耀《えよう》をしちゃアならんから、遠慮さ、又|旨《うめ》え物を喰おうと思っても旨え物を喰って楽しんじゃアどうも済まねえと思って遠慮をして居ります、何も皆遠慮をしているが私が毎晩《めえばん》/\御寝所|近《ぢけ》えお庭を歩いているは何の為だ、若殿様が御病気ゆえ大切に思えばこそだ、それに御家来の衆も毎晩《めえばん》のことだから看病疲れで眠りもすりゃア、明方《あけがた》には疲れて眠る方も有るまい者でもねえ、其の時怪しい者が入《へい》っちゃアならねえと思うからだ、此の程は大分|貴方《あんた》顔なんど隠しちゃア長い物を差した奴がうろつか/\して、御寝所の縁の下などへ入《へい》る奴があるだ、過般《こねえだ》も私がすうと出たら魂消《たまげ》やアがって、面《つら》か横っ腹か何所《どっ》か打ったら、犬う見たように漸《ようよ》う這上ったから、とっ捕《つか》めえて打ってやろうと思う中《うち》に逃げちまったが、爾《そ》うして気を付けたら私はこれを忠義かと心得ます、他《ほか》の事は遠慮を致しますが、忠義の遠慮は出来ねえ、忠義というものは誠だ誠の遠慮は何うしても出来ません、夜《よる》巡《まわ》ることは別段誰にも言付かったことはない、役目の外《ほか》だ、私も眠いから宅《うち》で眠れば楽だ、楽だが、それでは済みませんや、大恩のある御主人様の身辺《あたり》へ気を付けて、警護をしていることを遠慮は出来ませんよ、無理な話だ、巡《まわ》ったに違《ちが》えねえ、それでもまだ遠慮して外庭ばかり巡って居りまオた、すると勘八の野郎が……勘八とは知んねえだ初まりは……犬う斬ったから野郎と押えべいと出たわけさ、それに違《ちげ》えねえでございますよ、はいそれとも忠義を遠慮をしますかな」
と弁舌|爽《さわや》かに淀みなく述立てる処は理の当然
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