いと申付けたに相違ござらん、然るに彼がお手飼の犬とも心得んで、吠《ほ》えられたに驚き、梅鉢を手打にいたしました段は全く彼何も弁《わきま》えん者ゆえ、斯様な事に相成ったので、兄五郎治に於《おい》ても迷惑いたします事でござる、併《しか》し何も心得ん下人《げにん》の事と思召《おぼしめ》しまして、幾重にも私が成代ってお詫を申上げます、御高免《ごこうめん》の程を願いとうござる、全く知らん事で」
目「むう、そりゃ其の方兄五郎治から言付けられて、其の方が見廻るべき所を其の方がお上屋敷へまいって居《お》る間、此の勘八に申付けたと申すのか、それは些《ち》と心得んことじゃアないか、うん、これ申付けても外庭を見廻らせるか、又はお馬場口を見廻るが当然、陪臣の身分で御寝所近い奥庭まで夜廻りに這入れと申付けたるは、些と訝《おか》しいようだ、左様な事ぐらいは弁《わきま》えのない其の方でもあるまい、殊《こと》に又帯刀をさせ面部を包ませたるは何う云う次第か」
四「それは夜陰《やいん》の儀でござるで、誠にお馬場口や何か淋しくてならんから、彼に見廻りを申付ける折《おり》に、大小を拝借致したいと申すから、それでは己《おれ》の積《つもり》で廻るが宜《よ》いと申付けましたので、大小を差しましたる儀で、併《しか》し頭巾を被りましたことは頓《とん》と心得ません……これ勘八、手前は何故《なぜ》目深《めぶか》い頭巾で面部を包んだ、それは何ういう仔細か、顔を見せん積りか」
勘「えゝ誠にどうも夜《よ》になりますと寒うございますんで、それゆえ頭巾を被りましたんで」
目「なに寒い……当月は八月である、未《いま》だ残暑も失《うせ》せず、夜陰といえども蒸《いき》れて熱い事があるのに、手前は頭巾を被りたるは余程寒がりと見ゆるな」
勘「へえ、どうも夜《よる》は寒うございますので」
目「寒くば寒いにもせよ、一体何ういう心得で其の方が御寝所近くへ這入った、仔細があろう、如何様《いかよう》に陳じても遁《のが》れん処であるぞ、兎や角陳ずると厳しい処の責めに遇《あ》わんければならんぞ、よく考えて、迚《とて》も免《のが》れん道と心得て有体《ありてい》に申せ」
勘「有体たって、私《わたくし》は何も別に他から頼まれた訳はございませんで、へえ」
目「中々|此奴《こやつ》しぶとい奴だ、此の者を打ちませえ」
四「いや暫く……四郎治申し上げます、暫くどうぞ
前へ 次へ
全235ページ中215ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング