た。
四十五
勘八は図太い奴でございますから、態《わざ》と落著振《おちつきはら》いまして、
勘「へえ、誠に恐入りましてございます。お庭内へ参りましたのは、此の頃は若殿様御病気でございまして、皆さんが御看病なすっていらっしゃるので、どうもお内庭はお手薄でございましょうから、夜々《よる/\》見廻った方が宜《い》いと主人から言いつかりました、それにお手飼の犬とは存じませんで、檜木山の脇へ私《わたくし》が参りましたら、此の節の陽気で病付《やみつ》いたと見えまして、私に咬付《かみつ》きそうにしましたから、咬付かれちゃア大変だと一生懸命で思わず知らず刀を抜いて斬りましたが、お手飼の犬だそうで、誠にどうも心得んで、とんだ事を致しました、へえ重々恐入りましてございます」
目「そりゃアお手飼の犬と知らず、他《ほか》の飼犬にも致せ、其の方陪臣の身を以《もっ》て夜中《やちゅう》大小を帯《たい》し、御寝所近い処へ忍び入ったるは怪しい事であるぞ、さ何者にか其の方頼まれたので有ろう、白状いたせ、拙者|屹度《きっと》調《しらべ》るぞ」
勘「へえ、何も怪しくも何ともないんでございます、全く気を付けて時々お庭を廻れと云われましたんでございます、それゆえ致しました、此処《こゝ》においでなさいます主人の御舎弟四郎治様も爾《そ》う仰しゃったのでございます」
目「うむ、四郎治其の方は此の者に申付けたとの申立《もうしたて》じゃが、全く左様か」
四「えゝ、お目付へ申上げます、実は兄五郎治は此の程お上屋敷のお夜詰《よづめ》に参って居ります、と申すは、大殿様御病気について、兄も心配いたしまして、えゝ、番でない時も折々は御病気伺いに罷《まか》り出《い》で又御舎弟様も御病気に就《つ》きお夜詰の衆、又御看護のお方々もお疲れでありましょう、又疲れて何事も怠り勝の処へ付入《つけい》って、狼藉者《ろうぜきもの》が忍入るような事もあれば一大事じゃから、其の方|己《おれ》がお上屋敷へまいって居《お》る中《うち》は、折々お内庭を見廻れ、御寝所近い処も見廻るようにと兄より私《わたくし》が言付《いいつ》かって居ります、然《しか》る処昨日御家老より致しまして、火急のお呼出しで寅の門のお上屋敷へ罷出《まかりで》ましたが、私は予々《かね/″\》兄より言付かって居りますから、是なる勘八に、其の方代ってお庭内を廻るが宜《よ》
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