力無双《だいりきむそう》の權六に捉《とら》えられたのでございますから身動きが出来ません。引摺《ひきず》られるようにしてお役所へ参り、早々届けに成りました事ゆえ、此の者を縛《くゝ》し上げまして、其の夜《よ》罪人《とがにん》を入れ置く処へ入れて置き、翌日お調べというのでお役所へ呼出しになりました時には、信樂豐前《しがらきぶぜん》というお方がお目付役を仰付けられて、掛りになりました。此の信樂という人は左《さ》したる宜《よ》い身分でもないが、理非明白な人でありますから、お目付になって、内々《ない/\》叛謀人《むほんにん》取調べの掛りを仰付けられました。差添《さしぞえ》は別府新八《べっぷしんぱち》で、曲者は森山勘八《もりやまかんぱち》と申す者で、神原五郎治の家来であります。呼出しになりました時に、五郎治の弟《おとゝ》四郎治が罷《まか》り出ます事になりお縁側の処へ薄縁《うすべり》を敷き、其の上に遠山權六が坐って居ります。お目付は正面に居られます。また砂利の上に莚《むしろ》を敷きまして、其の上に高手小手《たかてこて》に縛《くゝ》されて森山勘八が居りますお目付が席を進みて。
目付「神原五郎治|代《だい》弟《おとゝ》四郎治、遠山權六役目の儀ゆえ言葉を改めますが、左様に心得ませえ」
四「はっ」
權「ほう」
目付「權六其の方昨夜外庭見廻りの折《おり》、内庭の檜木山《ひのきやま》の蔭へまいる折柄《おりから》、面部を包みし怪しき侍|体《てい》のものが、内庭から忍び出《い》で、お手飼の梅鉢を一刀に斬りたるゆえ、怪しい者と心得て組付き、引立て来たと申す事じゃがそれに相違ないか」
權「はい、それに相違ございません、どうも眼ばかり出して、長《なげ》え物を突差《つッさ》しまして、あの檜木山の間から出て来た……、怪しい奴と思えやして見ているうち、犬を斬りましたから、何でも怪しいと思えやしたから、ふん捕《づか》めえました」
目付「うん……神原五郎治家来勘八、頭《かしら》を上げえ」
勘「へえ」
目「何才になる」
勘「三十三でございます」
目「其の方|陪臣《ばいしん》の身の上でありながら、何故《なにゆえ》に御寝所近い内庭へ忍び込み、殊《こと》には面部を包み、刄物を提げ、忍び込みしは何故《なにゆえ》の事じゃ、又お手飼の犬を斬ったと申すは如何《いか》なる次第じゃ、さ有体《ありてい》に申せ」
 と睨《ね》めつけまし
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