「何故毒になる、若《も》し毒になるなら、水飴を上げても咳の助けには相成らん、却《かえ》って悪いから止《よ》せと何故止めん」
富「左様な事を口でぐず/\申している内には召上ってしまいます、召上っては大変と存じまして、お庭へ投棄てました」
紋「余程変じゃ…」
富「先《まず》ま外村氏安心致しました」
外「安心じゃアない、粗忽《そこつ》千万な事じゃないか、手前は只驚いて何とも申上げ様がない、お上屋敷から下すったものを無闇にお庭へ投棄てるというは何ういう心得違いで」
紋「外村彼是云うな、此奴は君臣の道を弁《わきま》えんからの事じゃ、予を嘲弄《ちょうろう》致すな、年若の主人と侮《あなど》り何《ど》の様《よう》な事を致しても宜しいと存じておるか、幼年の時から予の側近く居《お》るによって、いまだに予を子供のように思って馬鹿に致すな」
富「いえ、中々もちまして」
紋「いや容赦《ようしゃ》は出来ん、棄置かれん、今日《こんにち》の挙動《ふるまい》は容易ならんことじゃ」
富「お棄置きに成らんければお手打になさいますか」
紋「尤《もっと》も左様」
富「私《わたくし》も素《もと》より覚悟の上、お手打になりましょう」
外「これ/\何だ、何を馬鹿を申す、少々|逆上《のぼせ》て居《お》る様子、只今御酒を戴きましたので、惣衞|彼《かれ》に成代《なりかわ》ってお詫をいたします、富彌儀|太《ひど》く逆上《ぎゃくじょう》をして居《お》る様子で」
富「いゝえ私《わたくし》はお手打に成ります」
紋「おゝ手打にしてやる是へ出え」
富「いゝえお止めなすっても私《わたくし》は出る」
と大変騒々しくなって来た処へ、這入って来ましたのは秋月喜一郎という御重役で、お茶台の上へ水飴を載せてスーと這入って来ながら此の体《てい》を見て。
喜「何を遊ばすの、御病中お高声はお宜しく有りません、富彌如き者をお相手に遊ばしてお論じ遊ばすのはお宜しくない、富彌も控えよ」
富「へえ/\」
と云ったが心の中《うち》で、此の秋月は忠義な者と思ったから。
富「何分宜しく、併《しか》し水飴はお止《とゞ》め申します」
紋「えゝ喜一郎、今日《きょう》は富彌の罪は免《ゆる》さんぞ、幼年の折から側近くいて世話致しくれたとは申しながら、余りと云えば予を嘲弄いたす、予を蔑《ないがしろ》にする富彌、免し難い、斬るぞ」
喜「これは又大した御立腹、全体何ういう事
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