が附いて高台に載せてお湯が出ました。側に在《あ》ります銀の匙《さじ》を執《と》って水飴を掬《すく》おうとしたが、旨くいきません。
紋「これは思うようにいかんの」
惣「極製《ごくせい》の水飴ゆえ金属《かなもの》ではお取り悪《にく》うございます、矢張《やっぱり》木を裂《さ》いた箸が宜しいそうで」
紋「然《そ》うかの、箸を持て」
 と箸を二本|纒《まと》めて漸々《よう/\》沢山捲き上げ、老女が頻《しき》りに世話をいたして、
老「さア/\お口を」
紋「うむ」
 と今箸を取りにかゝる処へ駈込んで来たのは川添富彌、物をも云わず紋之丞様が持っていた箸を引奪《ひったく》って、突然庭へ棄てた時には老女も驚き、殿様も肝《きも》を潰《つぶ》しました。

        四十四

紋「何じゃ/\」
富「ハッ富彌で」
紋[#「紋」は底本では「富」]「白痴《たわけ》……何をいたす」
富「ハア」
 と胸を撫下《なでおろ》し、
富「誠に幸いな処へ駈付けました、どうか水飴を召上る事はお止《とゞま》りを願います、決して召上る事は相成《あいなり》ません」
老「はアどうも私《わたくし》は恟《びっく》りしました、これは何という事です、御無礼至極ではござりませんか、殊《こと》に只今お上屋敷からお見舞として下されになった水飴、お咳が出るから召上ろうとする所を、奪《と》ってお庭へ棄てるとは何事です」
富「いえ、これは棄てます」
紋「富彌、此の水飴はお兄様《あにいさま》がな咳が出るからと云って養いに遣《つか》わされた水飴を、何故《なぜ》其の方は庭へ棄てた」
富「いえ仮令《たとい》お上屋敷から参りましても、天子《てんし》将軍から参りましても此の水飴は富彌|屹度《きっと》棄てます」
紋「何うか致したな此奴《こやつ》は……これ其の方は予が口へ入れようとした水飴を庭へ棄てた上からは、取りも直さず予とお兄様を庭へ投出したも同様であるぞ、品物は構わんが、折角お心入れの品を投げ棄てたからは主人を投げたも同じ事じゃ」
富「へえ重々恐入ります、其の段は誠に恐入りましたが、水飴を召上る事は決して相成りません」
紋「何故ならん」
富「何でも相成りません」
紋「余程|此奴《こやつ》は何うかいたして居《お》る、無礼至極の奴じゃ」
富「御無礼は承知して居ります、甚《はなは》だ相済みません事と存じながら、お毒でござるによって上げられません」

前へ 次へ
全235ページ中208ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング