を遊ばすとお動悸が出まして、却《かえ》って、お悪いとお医者が申しました」
紋「うむ、今日《きょう》はお兄上様からお心入《こゝろいれ》の物を下され、それを持参いたしたお使者で、平生《つね》の五郎治では無かった、誠に使者|太儀《たいぎ》」
 ごろりと直《すぐ》に横っ倒しになり、掻巻《かいまき》を鼻の辺《あたり》まで揺《ゆす》り上げてしまう。仕方が無いから五郎治はそろり/\と跡へ退《さが》る。一同気の毒に思い、一座白け渡りました。
千「神原氏、余程の御癇癖お気に支《さゝ》えられん様に、我々はお少《ちい》さい時分からお附き申していてさえ、時々お鉄扇《てっせん》で打たれる様な事がある、御病中は誠に心配で、腫物《はれもの》に障るような思いで、此の事は何卒《どうぞ》上《かみ》へ仰せられんように」
五「宜しゅうございます」
老「五郎治殿、誠に今日《きょう》は遠々《とお/″\》の処御苦労に存じます、只今の事は上《かみ》へ仰せ上げられんように、何もござりませんが一献《いっこん》差上げる支度になって居りますから、あの紅葉《もみじ》の間《ま》へ」
 と言われて五郎治は是を機会《しお》に其の座を退《しりぞ》きました。暫く経つと紋之丞様がばと起上って、
紋「惣衞/\」
惣衞「はア」
紋「惣衞、何は帰ったか五郎治は」
惣「えゝ慥《たし》かお次に扣《ひか》え居りましょう、上《かみ》のお使《つかい》でございますから、紅葉の方へ案内致しまして、一献出しますように膳の支度をいたして居ります」
紋「じゃが何《なん》じゃの、何故《なぜ》お兄様《あにいさま》は彼《あん》な奴を愛して側近く置くかの、彼《あれ》はいかん奴じゃ」
惣「左様な事を今日《こんにち》は御意遊ばしません方が宜しゅうございます」
紋「云っても宜しい、彼《あれ》は※[#「言+滔のつくり」、第4水準2−88−72]《へつら》い武士じゃ、佞言《ねいげん》甘くして蜜の如しで、神原|或《あるい》は寺島|等《ら》をお愛しなさるのは、勧める者が有るからじゃの、惣衞」
惣「御意にござります」
紋「心配じゃ」
惣「御病中何かと御心配なされては相成りません、程無《ほどの》うお国表から福原數馬も出仕致しますから」
紋「あゝ數馬が来たら何うか成るか、あゝ逆上《のぼ》せて来た、折角お兄様から下すった水飴、甜《な》めて見ようか」
惣「召上りませ、お湯を是へ」
 是から蓋
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