二十四五という癇癖《かんしゃく》ざかりでございます。老女喜瀬川が出まして、
喜「上《かみ》……上」
紋「うむ」
喜「お上屋敷からお使者がまいりました」
紋「うむ、誰が来た」
喜「上《かみ》のお使いに神原五郎治がまいりまして、御病気伺いに出ました、お目通りを仰付けられたいと申します、御面倒でございましょうが、お使者ではお会いが無ければなりますまい、如何《いかゞ》致しましょうか」
紋「うむ、神原五郎治か……彼《あれ》は嫌いな奴じゃが、此処《こゝ》へ通せ」
喜「畏《かしこま》りましてございます……若殿がお会いが有りますから、これへ直《すぐ》に」
 と中田千股という人が取次ぎますと、結構な蒔絵《まきえ》のお台の上へ、錦手《にしきで》の結構な蓋物《ふたもの》へ水飴を入れたのを、すうっと持って参り、
喜「お上屋敷からのお遣《つか》い物で」
 とお枕元に置く。お次の隔《へだて》を開けて両手を支《つか》え、
五「はア」
 と慇懃《いんきん》に辞儀をする。
五「神原五郎治で、長の御不快蔭ながら心配致して居りました、また上《かみ》に置かせられてもお聞き及びの通り御病中ゆえ、碌々《ろく/\》お訪ね申さんが、予の病気より梅の御殿の方が案じられると折々《おり/\》仰せられます、今日《こんにち》は御病気伺いとして御名代《ごみょうだい》に罷《まか》り出ました、是《こ》れは水飴でございますが、夜分になりますとお咳が出ますとのこと、其の咳を防ぎますのは水飴が宜しいとのことで、これは極製《ごくせい》の水飴で、これを召上れば宜くお眠《よ》られます、上が殊《こと》の外《ほか》御心配なされ、お心を入れさせられし御品《おんしな》、早々《そう/\》召上られますように」
紋「うむ五郎治、あゝ予の病気は大した事はない、未《いま》だ壮年の身で、少し位の病魔に負けるような事はない、快《よ》い時は縁側ぐらいは歩くが、只お案じ申上げるのはお兄様《あにいさま》の御病気ばかり、誠に案じられる、お歳といい、此の程はお悪いようじゃが、何うじゃな」
五「はア一昨日《いっさくじつ》は余程お悪いようでございましたが、昨日《さくじつ》よりいたして段々御快気に赴《おもむ》き、今朝《こんちょう》などはお粥《かゆ》を三椀程召上りました、其の上お力になる魚類を召上りましたが、彼《あ》の分では遠からず御全快と心得ます」
紋「うむ悦ばしい、予が夜分咳
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