も委《くわ》しいことは分るまいが……、婆嘉八とも暫時《ざんじ》彼方《あっち》へ退《の》いてくれ」
婆「はい」
と立ってゆく。後《あと》見送りて、
秋「手前も存じて居《お》る通り、只今其の方が申した医者の娘、お秋の方《かた》が儲《もう》けられた菊さまという若様がある、其の方《かた》を御家督に立てたいという慾心から、菊様の重役やお附のものが皆心を合せて御舎弟様を亡《な》き者にせんと……企《たく》むのでは有りはすまいが、重役の者一統心配して居《お》る、御舎弟様は大切のお身の上、万一《まんいち》間違でもあっては公儀へ対しても相済まんことだが、そりゃア手前も心得て居《お》るだろう、只山路が頼んだというと、山路はお秋の方の実父だから、左様なこともありはせんかと私《わし》は疑ぐる、併《しか》し然《そ》うで有るか無いか知れんものに疑念を掛けては済まんけれども、大切のことゆえ有体《ありてい》に云ってくれ、其の方《ほう》御舎弟様を大切に思うなれば云ってくれ、秋月が此の通り手を突いて頼む……な……決して手前の咎めにはせんよ、出入も元々どおりにさせ、また事に寄ったら三人扶持《さんにんふち》か五人扶持ぐらいは、若殿様の御世《およ》になれば私から直々《じき/\》に申上げて、其の方一代ぐらいのお扶持は頂戴さしてやる」
と和《やわ》らかに言わるゝ程気味が悪うございますから、源兵衞は恐《おそ》る/\首《こうべ》を上げ、
源「へえ、有難う、恐入りますことで、貴方さまのような御重役が、私《わたくし》ごとき町人風情に手を突いてお頼みでございましては、誠に恐入ります、私も実はその、えゝ……始めは驚きましてございますが……実はその、へえ、お立派なお方さまのお頼みでございまして、斑猫てえ虫を捕《と》って水飴の中へ入れてくれろというお頼みでございます、初めは山路というお医者が、何とかいう、えゝ、※[#「譽」の「言」に代えて「石」、第3水準1−89−15]石《よせき》とかいう薬を入れて練ったらと云うので練って見ましたが、これは水飴の中へ入れても好《よ》く分りますので、毒虫を煮てらんびき[#「らんびき」に傍点]にいたして、その毒気《どくき》を水飴の中へ入れたら、柔《やわら》かになって宜かろうというお頼みで、迂濶《うっか》りお目通りをして其の事を伺い、これは意外な事と存じまして、お断りを申上げましたら、其の事が不承
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