秋「少し手前に尋ねたい事があって、急ぐか知らんが、同道しても宜しい、暫《しばら》く待ってくれ、少し問う事がある、源兵衞其の方は何ういう縁か、飴屋風情でお屋敷の出入町人となっている故、殿様の有難い辱《かたじけ》ないという事を思うなら、又此の方《ほう》が貴様を引廻しても遣《つか》わすが、真《しん》以て上《かみ》を有難いと心得てお出入をするか、それから先へ聞いて、後《あと》は緩《ゆっ》くり話そう」
源「へえ誠にどうも細い商いでございますが、御用向を仰付けられて誠に有難いことだ、冥加至極と存じまして、へえ結構な菓子屋や其の他《た》のお出入もある中にて、飴屋風情がお出入とは実に冥加至極と存じて居ります、殿様が有難くないなどゝ誰が其様《そん》なことを申しました」
秋「いや然《そ》うじゃアない、真に有難いと心得て居《お》るだろう」
源「それは仰しゃるまでもございません、此の後《のち》ともお引廻しを願いとう存じます」
秋「それでは源兵衞、手前が何《ど》の様《よう》に隠しても隠されん処の此方《こちら》に確かな証拠がある、隠さずに云え、じゃが手前は何ういう訳で斑猫《はんみょう》という毒虫を婆《ばゝ》に頼んで一疋六百ずつで買うか、それを聞こう」
と源兵衞の顔を見詰めている中《うち》に、顔色《がんしょく》が変ってまいると、秋月喜一郎は態《わざ》とにや/\笑いかけました。
四十一
さて秋月喜一郎は、飴屋源兵衞を柔らかに欺《だま》して白状させようという了簡、其の頃お武家が暴《あら》い事をいたすと、町人は却《かえ》って驚いて、云うことも前後致したり、言いたいことも言い兼《かね》て、それがために物の分らんような事が、毎度町奉行所でもあった事でございます。源兵衞は何うして知れたかと思って、顔色《かおいろ》を変え、突いていた手がぶる/″\震える様子ゆえ、喜一郎は笑《えみ》を含みまして、物柔らかに、
秋「いや源兵衞何か心配をして、これを言ってはならんとか、彼《あれ》を言っては他《ほか》役人の身の上にも拘《かゝ》わるだろうと深く思い過《すぐ》して、隠し立てを致すと却って為にならんぞ、定めし上役《うわやく》の者が其の方に折入《おりい》って頼んだ事も有るであろうが、其の者の身分柄にも障《さわ》るような事があってはならんから、これは秋月に言っては悪かろうと、斯う手前が考えて物を隠すと、
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