却って悪い、と云うのは元来《もと/\》お屋敷へ出入《でいり》を致すのには、殿様を大事と心得なければならん、そりゃアまた出入町人にはそれ/″\係りの者もあるから、係り役人を粗末にしろと云うのではないが、素《もと》より手前は上《かみ》の召上り物の御用を達《た》す身の上ではないか、なア」
源「へえ誠にどうも其の、えゝ…何うも私《わたくし》がその、事柄を弁《わきま》えませんものでございまして、唯飴屋風情の者がお屋敷へお出入を致しまして、お身柄のあります貴方様を始め、皆様に直々《じき/\》斯う遣《や》ってお目通りをいたし、誠に有難い事と心得まして、只私はえゝ何うも其の有難くばかり存じますので、へえ自然に申上げます事もその前後《あとさき》に相成ります」
秋「なに有難く心得て、言う事が前後《ぜんご》になるというのは可笑《おか》しい一体何ういう訳で手前は当家の婆《ばゞあ》に斑猫《はんみょう》を捕《と》ってくれろと頼んだか、それを云えというんだ」
源「それはその私《わたくし》が懇意にいたします近辺に医者がございまして、その医者がどうも其の薬を……薬は一体毒なもので、※[#「やまいだれ+難」、第3水準1−88−63]《よう》疔《ちょう》根太《ねぶと》腫物《はれもの》のようなものに貼《つ》けます、膏薬吸出しのようなものは、斑猫のような毒が入りませんければ、早く吹切《ふっき》りません、それゆえ欲《ほし》いと申されました事でございまして」
秋「其の人は何処《どこ》の者か」
源「へえ実はその……私《わたくし》が平常《ふだん》心易《こゝろやす》くいたしますから、どうかお前頼んでくれまいかと云われて、私が其の医者を同道いたしてまいりまして、当家の婆《ばゞあ》に頼みましたのでございます」
秋「ムヽウ、其の医者は何処の者だえ、いやさ近辺にいるというが、よもやお抱《かゝ》えの医者ではあるまい、町医か外療《げりょう》でもいたすものかえ」
源「へえ、その……大概その外療をいたしましたり、ま其の風《かぜ》っ引《ぴ》きぐらいを治すような工合《ぐあい》で」
秋「何と申す医者だえ」
源「へい、その誠にその、雑《ざっ》といたした医者で」
秋「雑と致した、そんな医者はありません、名前は何というのだえ」
源「名前はその、えゝ……実はその何でございます、山路と申します」
秋「山路……山路宗庵と云うか」
源「へえ、好《よ》く
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