していた、手前は彼《あ》の手紙を何者かに奪《と》られたな」
有「へえ、春部に奪られたので、春部の彼奴《あいつ》が若江という小姓と不義《いたずら》をして逃げたんで、其の逃げる時にお馬場口から柵矢来《さくやらい》の隙間の巾の広い処から、身体を横にして私《わたくし》が出ようと思います途端に出会《でっくわ》して、実にどうも困りました」
大「手紙を何うした奪られたか」
有「それがお前さん、鼻を摘《つま》まれるのも知れねえ深更《よふけ》で、突然《いきなり》状箱へ手を掛けやアがッたから、奪られちゃアならねえと思いやして、引張ると紐が切れて、手紙が落《おっ》こちる、とうとう半分|引裂《ひっさ》かれたから、だん/\春部の跡を尾《つ》いて行《い》くと、鴻の巣の宿屋へ入りやしたから、感が悪い俄盲ッてんで、按摩に化けて宿屋に入込《いりこ》み一度は旨く春部の持っていた手紙の裂《きれ》を奪《と》ったが、まんまと遣《や》り損《そこ》なって、物置へ棒縛りにして投込まれた、所で漸《ようや》く縄脱《なわぬ》けえして逃出しましたが、近辺にも居《い》られやせんから、久しく下総《しもふさ》の方へ隠れていやしたが、春部にあれを奪られて何う致すことも出来やせんので、へえ」
大「いや、それは宜しい、心配致すな、手前は己の家来ということを知るまい」
有「ところが知ってます/\、済まねえけれどもお前さん、ギラ/\するやつを引《ひっ》こ抜いて私《わっし》の鼻っ先へ突付け云わねえけりゃア五分だめしにしちまう、松蔭の家来だろう、三崎の屋敷に居たろう、顔を知ってるぞ、さア何うだと責められて、つい左様でごぜえますと申しやした」
大「なにそれは云っても宜《い》い、彼《あ》の晩には実ア神原も酷《ひど》い目に遭った、何事も是程の事になったら幾らも失策《しくじり》はある、丸切《まるッき》りしくじって、此の屋敷を出てしまったところが、有助貴様も己と根岸に佗住居《わびずまい》をしていた時を思えば、元々じゃアないか」
有「それは然《そ》うでごぜえます」
大「彼処《あすこ》に浪人している時分一つ鍋で軍鶏《しゃも》を突《つッつ》き合っていたんだからのう」
有「旦那のように然う小言を云わずにおくんなさるだけ、一倍|面目無《めんぼくの》うござえます」
大「だによって行《や》る処までやれ、今までの失策《しくじり》も許し、何もかも許してやる、それに手前
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