、宿下《やどさが》りか」
清「それがね、お屋敷|内《うち》でね、一つ所で働く若《わッけ》え侍《さむれえ》があって、好《え》え男よ、其方《そっち》を掃いてくんろ、私《わし》イ拭くべえていった様な事から手が触り足が触りして、ふと私通《くッつ》いたんだ、だん/\聞けば腹ア大《でか》くなって赤児《ねゝこ》が出来てみれば、奉公は出来ねえ、そんならばとって男を誘い出して、済みませんから老僕《じい》や詫言をしてくんろってよ、どうかまアね、本当に好《え》いお侍《さむれえ》だよ」
母「むゝう……じゃア何か情夫《いろおとこ》を連れやアがって駈落いして来たか」
清「うん突走《つッぱし》って来ただ」
母「それから汝《われ》何処《どこ》へ入れた」
清「何処だって別に入れ処《どこ》がねえから、新家《しんや》の六畳の方へ入れて飯《まんま》ア喰わして置いただ」
母「馬鹿野郎、呆れた奴だよ、何故|宅《うち》へ引入れた、何故敷居を跨《また》がしたよ、屋敷奉公をしていながら、不義《わるさ》アして走って来るような心得違《こころえちが》えな奴は、此処《こゝ》から勝手次第に何処《どこ》へでも往《ゆ》くが宜《え》えと小言を云って、何故追出してやらねえ、敷居を跨がして内へ入れる事はねえよ」
清「それは然《そ》う云ったって仕様がねえ、どうせ年頃の者に固くべえ云ったっていかねえ、お前《めえ》だって此処《こけ》え縁付いて来るのに見合から仕て、婚礼したじゃアねえ、彼《あれ》を知ってるのは私《わし》ばかりだ、十七の時だね、十夜《じゅうや》の帰りがけにそれ芋畠《ずいきばたけ》に二人立ってたろう」
母「止せ……汝《われ》まで其様《そんな》ことをいうから娘《あま》がいう事を肯《き》かねえ、宜く考《かんげ》えて見ろよ、熊《くま》ヶ谷《い》石原《いしはら》の忰を家《うち》へよばる都合になって居るじゃアねえか、親父のいた時から決っているわけじゃアねえか、それが今|情夫《おとこ》を連れて逃げて来やアがって、親が得心で匿《かく》まって置いたら、石原の舎弟や親達に済むかよ」
清「おゝ違《ちげ》えねえ、是は済まねえ」
母「済まねえだって、汝《われ》は何もかも知っていながら、彼《あ》の娘《あま》を連れて来て、足踏みをさせて済むかよ、只《たっ》た今|追出《おんだ》してしめえ、汝《われ》ア幾歳《いくつ》になる、頭ア禿《はげ》らかしてよ、女親だけに子
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