大「静かに/\」
林「ど何ういう事で」
大「静かに……」
林「はい、只今開けます、灯火《あかり》が消えて居りますから、只今……先刻《さっき》から種々《いろ/\》考えて居て一寸《ちょっと》も眠《ね》られません、へえ開けます」
がら/\/\。
林「先刻の事が気になって眠《ねむ》られませんよ」
大「一緒に来い/\」
林「ひえ/\」
大「手前の手許《てもと》に小短い脇差で少し切れるのがあるか」
林「ひえ、ござえます」
大「それを差して来い、静かに/\」
と是れから林藏の手を引いて、足音のしないように花壇の許《もと》まで連れて来まして、
大「これ」
林「ひえ/\」
大「菊は此の通りにして仕舞った」
林「おゝ……これは……どうもお菊さん」
大「これさ、しッ/\……主人の言葉を背《そむ》く奴だから捨置き難い、どうか始終は林藏と添わしてやりたいから、段々話をしても肯入《きゝい》れんから、已《や》むを得ず斯《かく》の通り致した」
林「ひえゝ、したがまア、殺すと云うはえれえことになりました、可愛相な事をしましたな」
大「いや可愛相てえ事はない、手前は菊の肩を持って未練があるの」
林「未練《めれん》はありませんが」
大「なアに未練《みれん》がある」
と云いながら、やっと突然《いきなり》林藏の胸倉を捉《とら》えますから、
林「何をなさいます」
と云う所を、押倒しざま林藏が差して居ました小脇差を引抜いて咽笛《のどぶえ》へプツーリ突通《つきとお》す。
林「ウワー」
と悶掻《もが》く所を乗掛って、
大「ウヽーン」
と突貫《つきつらぬ》く、林藏は苦紛《くるしまぎ》れに柄元《つかもと》へ手を掛けたなり、
林「ウヽーン」
と息が止りました。是から大藏は伸上って庭外《そと》を見ましたが人も来ない様子ゆえ、
大「しめた」
と大藏は跡へ帰って硯箱を取出して手紙を認《したゝ》め、是から菊が書いた起請文を取出して、大藏とある大の字の中央《まんなか》へ(ー《ぼう》)を通して跳《は》ね、右方《こちら》へ木の字を加えて、大藏を林藏と改書《なお》して、血をべっとりと塗附けて之を懐中し、又々庭へ出て、お菊の懐中を探して見たが、別に掛守《かけまもり》もない、帯止《おびどめ》を解《ほど》いて見ますと中に守《まもり》が入って居《おり》ますから、其の中へ右の起請を納《い》れ、元の様《よう》に致して置き、夜《よ》
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