なすってはいけません、誠に恐入《おそれい》りますねえ、只今親方もお内儀もお礼に出ますからお村さん宜しく」
友「此の羽織はいらない羽織で、だいなしになって居りますが、毎度板前さんにねえ我儘《わがまゝ》を云いますから、何卒《どうか》上げて下さい」
女「誠にどうも有難うございます」
友「此の烟草入《たばこいれ》はくだらないが毎《いつ》も頼む使《つかい》の方に」
村「此の羽織はいけないのですがあのお金どんに、此の笄は詰らないのですがお前さんに上げるから私の形見と思って指《さ》して下さい」
女「形見だなんぞと仰しゃると心細うございますねえ、本当に嘘でしょう、本当、まアどうも恟《びっく》りしますねえ、珊瑚樹《さんごじゅ》の薄色《うすいろ》で結構でございますねえ、私などはとても指す事は出来ませんねえ、これを頭へ指そうと思うと頭を見て笄が駈出してしまいますよ、笄には足がありますから、おやこれも、恐れ入りますねえ、少し横におなりなさいまし」
と屏風《びょうぶ》を立廻《たてまわ》し、枕元に烟草盆を置いて、床を取って、
女「お休みなさいまし」
と云って襖を締めて行《ゆ》きましたが、二人は今夜
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