方があるので、そのお方だと思うて、実に申そうようない事をいたし、申し訳がありまへん、どうぞ御勘弁を」
 浪「なんだえ、人違いだえ、巫山戯《ふざけ》た事を云っちゃアいけねえぜ、毎日《めえにち》人違《ひとちげ》えをする奴があるかえ、さア主人のある奴なら主人に掛合うし、主人がなけりゃアお前《めえ》だって親か兄弟があるだろう、一緒に行きなよ」
 と云いながら平ッ手でピシャーリ/\と打《ぶ》ちます。寒い時に板の間へ長く坐って慄《ふる》えて居る処を打たれますから、身体へ手の跡が真赤につきます。表へは黒山のように人が立ちまして、
 男「なんです/\」
 乙「なんだか知りませんが苛《ひど》い女ですなア」
 丙「なんでも盗賊《どろぼう》でございましょう、残らず取られて裸体《はだか》になったようですなア」
 甲「何を取られました」
 丙「何《な》んでも初めは手拭を取られたんだそうですが、仕舞には残らず取られたと見えて素裸《すっぱだか》になって、男の方で恐入《おそれい》ってヒイ/\云って居ますなア」
 甲「へーそれでは取った女が取られた人を打《ぶ》って居るのですか」
 丙「そうですなア、成程それにしちゃア妙
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