ですなア、何《なん》でも評判の悪人でございましょう、女でこそあれズウ/\しい奴でしょう」
 丁「なアに、そうじゃアありません、全くはお湯の中へ灰墨《へいずみ》を流したのだそうですが、大方恋の遺恨でございましょう、灰墨を手拭へくるんで湯の中へ流して、手拭がないから彼奴《あいつ》に違いないと云っているんでしょう」
 戊「なアに、そうじゃありません、小児《あかんぼ》の屎《うんこ》を流したんだって」
 乙「へーそうですか」
 癸「なに、そうじゃありません、湯の中でお産をしたんだそうです」
 などといろ/\評議をしているが、何《なん》だか訳が分りません。処へ参ったのは業平文治で、姿《なり》は黒出《くろで》の黄八丈《きはちじょう》にお納戸献上《なんどけんじょう》の帯をしめ蝋色鞘《ろいろざや》の脇差《わきざし》をさし、晒《さらし》の手拭を持って、ガラリッと障子を開けますと、
 番「へー旦那《だんな》いらっしゃいまし」
 文「はい、何か表へ人立《ひとだち》がして居るが間違いでもあったのか」
 番「どうかお構いなく、文庫へお脱ぎなさいまし」
 文「いや/\、人立がすれば往来の者も困りますし、お前も困るだ
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