彼《あ》の人の傍《そば》に坐ると厭な心持になりますよ、そうして反身《そっくり》かえって煙管《きせる》を手の先で振廻し、落してお皿を欠いたり、鼻屎《はなくそ》をほじくっては丸薬にしたりして何《なん》だか厭だよ」
 月「そうサ、変な処があるよ、気には入るまいが持物になって仕舞えば又好きな事も出来るわねえ」
 さ「有難いことだから諾《うん》とお云いよ、おい諾と云わないかよ」
 村「厭な事、私は死んでも厭だよ」
 さ「馬鹿な事をお云いでない、お前が諾と云えば私までが楽になるのだから親孝行だよ、それにお前は春の出の姿《なり》に気を揉んで居て一から十まで新しい物にしたがり、彼《あ》の縮緬《ちりめん》のお前さんが知ってる紋付さ、あれを色揚げをして置けば結構だと言えば、紋が黒くなると言うから、そうしたら薄い昇平《しょうへい》を掛ければ知れやしないと云うのに、何《なん》でも新しい姿《なり》ばかりしたがる癖にさ、私などの若い時分と違って好《い》い姿《なり》計りしたがったり、芝居へも往《ゆ》き、したいこともしたければ、諾と云って其の人を取らないと肯《き》かないよ」
 村「でも柳橋の芸者が旦那取りをしたと云っ
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