》を此処へ引摺り出しておくれ、私も独身《ひとりみ》じゃアなし、亭主《ていしゅ》もあるからそんな事をされては亭主に対して済みません、引出しておくれよ」
番「誠にお気の毒様でございますが、込合う湯の中でございますから、あなたがその人の顔を覚えて入らっしゃらないでは、此処へ出ておくんなさいと云っても、誰《たれ》も出る者はありませんから分りません、へい」
浪「さア証拠のない事は云わないよ、其奴の手拭を引奪って来たから手拭のない奴を出しておくれ」
番「へい、誰方《どなた》ですか、そんな悪戯をして困りますなア、どうか皆さんの中《うち》で手拭のない方はお出なすって下さい」
男「おい番頭さん己《おれ》は手拭を持ってるよ」
番「宜《よろ》しゅうございます」
男「己のもあるよ/\」
番「宜しゅうございます」
と云って皆《みん》な出て仕舞ったが、中に一人九兵衞さんと云う人ばかりは出られませんから、窃《そっ》と柘榴口《ざくろぐち》を潜《くゞ》って逃げようと思うと、水船の脇で辷《すべ》って倒れました。
男「おい/\番頭さん見てやれ/\、長く湯に入《へえ》っていたものだから眼が眩《まわ》って顛倒
前へ
次へ
全321ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング