悪々《にく/\》しい奴だ、此方《こっち》で切ろうとも云わないに切られようとする馬鹿な奴だなア」
 文「さア切れる腕があるなら切って見ろ」
 士「さア切るぞ」
 と彼《か》の士が大刀の※[#「※」は「てへん+丙」、39−7]《つか》へ手を掛けて詰め寄りますから、文治は半身《はんしん》下《さが》って身構えを致しましたが、一寸《ちょっと》一《ひ》と息|吐《つ》きまして直《すぐ》に後《あと》を申し上げます。

  三

 浪島文治が本所《ほんじょう》業平橋に居りましたゆえに人|綽名《あだな》して業平文治と申しましたとも云い、又男が好《よ》いから業平文治と申したとも仰しゃる方があります。尤《もっと》も業平|朝臣《あそん》と云うお方は美男と見えまして、男の好いのは業平のようだといい女で器量の好いのを小町《こまち》のようだと申しますが、業平朝臣は東国《あずま》へお下りあって、暫《しばら》く本所業平村に居りまして、業平橋の名もそれゆえに起りましたそうでございますが、都へお帰りの時船が覆《くつがえ》って溺死《できし》されましたにより、里人《さとびと》愍《あわ》れと思って業平村に塚《つか》を建てゝ祭りまし
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