り出して士《さむらい》の中へ入り、
文「えー御両所、此の者どもは二人共酔って居りますから、どうか免《ゆる》してやって下さい、そんなに人を無闇に切るものでは有りません」
士「貴公はなんだ、捨ておけ、武士に向って不礼《ぶれい》至極、手打に致すは当然《あたりまえ》だわ、それとも貴公は此の町人の連《つれ》か」
文「いゝえ通り掛りの者ですが、此の者どもを切るのは人参《にんじん》や大根を切るより易《やす》いではござらぬか、夜中《やちゅう》帯刀して此の市中を歩いて、無闇に刀を抜いて人を切るなどと云う事を仰しゃれば、先生のお名前にも係《かゝわ》りましょうから、サッサとお宅へお帰んなさい」
士「無礼至極、不届至極な事を云う奴だ」
文「何が不届です、斯様《かよう》な弱い奴を切るのは犬を切るのも同じ事でござる、士《さむらい》と云う者は弱い者を助けるのが真の武士、お前さん方は犬でも切って歩きそうな顔付だ」
士「最前から聞いて居れば手前は余程《よっぽど》付け上って居《お》るな、此の町人は謂《いわ》れなく切るのではない、余り無礼だに依《よ》って向後《きょうこう》の戒《いましめ》の為|切捨《きりすて》る
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