ら、其の袋を取ってぱっと投げますると、風が這入って袋の拈《より》が戻ったから、中からブウンと蚊が飛び出しました。文治郎は情深い人で、蚊まで助けましたから、今でもブウン/\と云って忘れずに文治郎の名を呼んで飛んで居ります。竹を突いて身軽に門番の家根へ飛上り、又竹を突いてさっと身軽に庭へ下りて、音のせぬように潜み、勝手を知った庭続き、檜《ひのき》の植込《うえご》みの所から伝わって随竜垣《ずいりゅうがき》の脇に身を潜めて様子を窺《うかゞ》うと、長《なが》四畳で、次は一寸《ちょっと》広間のようの所がありまして、此方《こちら》に道場が一杯に見えます。酒を飲んでグダ/\に酔って弟の蟠作が、和田原安兵衞と云う内弟子と二人で話をして居りますが、話をする了簡だけれども、食《くら》い酔って舌が廻りませんから些《ちっ》とも分りません、酒の相手は仕倦《しあ》きて妾のお村が浴衣《ゆかた》の姿《なり》で片手に団扇《うちわ》を持って庭の飛石《とびいし》へ縁台を置き、お母《ふくろ》と二人で涼んで居ります。
崎「さアお休みなさいよう、お村が早く寝たいと云いますよう……御舎弟様大概に遊ばせよう、お村が怒《おこ》って居り
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