、貴方にお恵みを受けました親父《ちゝ》庄左衞門は桜の馬場で何者とも知れず斬殺《きりころ》されましたことは御存じございますまい」
 文「えー……それは知らねど……どうも思い掛けない、何時《いつ》のことで……フーン後月《あとげつ》二十七日の夜《よ》に桜の馬場に於《おい》て何者に」
 町「はい、何者とも知れません、お検死の仰しゃるには余程|手者《てしゃ》が斬ったのであろうと、それに親父《ちゝ》がたしなみの脇差を佩《さ》して出ましたが、其の脇差は貞宗でございますから、それを盗取《ぬすみと》りました者を探《たず》ねましたら讐《かたき》の様子も分ろうかと存じますが、仮令《たとえ》讐が知れましてもかぼそい私《わたくし》が親の讐を討つことは出来ませんから、旦那様へ御奉公に上って居りましたら、讐の知れた時はお助太刀も願われようかと存じ、御飯炊の御奉公に願いましたことでございます、貴方のお身の上に若しもの事がありますれば、親の讐を討ちます望《のぞみ》も遂げられまいかと存じます……そればっかりが残念でございます」
 文「フーン、能く親の讐を討ちたいと云った、流石《さすが》は武士の娘だ、あゝそれでこそ文治郎の
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