、お母様の云うことをお背き遊ばさずに、親が云うからと不束《ふつゝか》な私《わたくし》を嫁にと仰しゃって下さりまして、私《わたくし》は実に心が切のうございます、何卒《どうぞ》女房と思し召さず御飯炊の奉公人と思召してお置き遊ばして下さるよう願いとう存じます」
文「それはお前分らぬことを云う、いやならいやと男だから云います、又気に入らぬ女房は持っている訳にはいかぬもの、一旦婚姻を致したからには決して飯炊奉公人とは思いません、文治郎|何処《どこ》までも女房と心得ればこそ母の身の上を頼むではないか、何《な》ぜ左様なことを云う」
町「ひょっと旦那様は他《ほか》にお母様に御内々《ごない/\》でお約束遊ばした御婦人でもございまして、お母様の前をお出《で》遊ばすにお間《ま》が悪いから、私《わたくし》のようなものでも嫁と定《き》めれば、まさか打明けて斯《こ》うだとお話も出来ないから、其の御婦人の方《かた》へお逢い遊ばしに夜分お出向《でむき》になる事ではないかと、私《わたくし》は悋気《りんき》ではございませんけれども、貴方のお身をお案じ申しますから、思い違えを致すこともございます、何卒《どうぞ》そう云う
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