し帰らぬことがあったらば文治郎亡き者と思い、私《わし》に成り代って一人のお母様《っかさま》へ孝行を頼みますぞよ」
 町「はい、旦那様、私《わたくし》が此方《こちら》へ縁付いて参りましてから、毎夜々々荒々しいお身姿《みなり》でお出向《でむき》になりますが、どうしてのことか、余程深い御遺恨でもありますことか、果し合とやら云うようなお身姿でございますが、お出《で》遊ばすかと思えば又直ぐお早くお帰りのこともあり、誠に私《わたくし》には少しも理由《わけ》が分りません、元より此方《こちら》へ嫁に参りたいと願いました訳でもございませず、どうか便り少い者ゆえ貴方様へ御飯炊奉公《ごぜんたきぼうこう》に参って居りますれば、不調法を致しましても、お情深い旦那様、行《ゆ》き所もない者と無理に出て行《ゆ》けとお暇《いとま》も出まいと思い、旦那様をお力に親の亡い後《のち》には唯《た》だ此方様《こなたさま》ばかりを命の綱と取縋《とりすが》って、御無理を願いましたことで、思い掛けなくお母様が嫁にと御意遊ばして、冥加に余ったことなれど、実は旦那様は嘸《さぞ》お嫌《いや》であろうと存じて居りました処が、御孝心深いあなた様
前へ 次へ
全321ページ中307ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング