って居りますから、暮方《くれがた》になると段々胸が塞《ふさが》りまして、はら/\致し、文治郎の側に附いて居りました。四《よ》つを打つと只今の十時でございますから、何所《どこ》でも退《ひ》けます。母にもお酒を飲ませ、安心させるよう寝かし付け、彼是《かれこれ》九つと思う時刻になると、読みかけた本を投げ棄て、風呂敷包みを持出しましたから、お町はあゝ又風呂敷包みが出たかと思うと、包を解《ほど》いて前《ぜん》申し上げた通り南蛮鍛えの鎖帷子、筋金の入《い》ったる鉢巻を致しまして、無地の眼立たぬ単衣《ひとえもの》に献上の帯をしめて、其の上から上締《うわじめ》を固く致して端折《はしおり》を高く取りまして、藤四郎吉光の一刀に兼元の差添《さしぞえ》をさし、國俊《くにとし》の合口《あいくち》を懐に呑み、覗き手拭で面部を深く包みまして、ぴったりと床《とこ》の上へ坐りまして、
 文「お町やこれへお出で」
 町「はい、お呼び遊ばしましたか」
 文「毎夜云う通り今晩は愈々《いよ/\》行《ゆ》かんければならぬことになりました、多分今宵は本意《ほんい》を遂《と》げて立帰る心得、明け方までには帰るから、どうか頼むぞよ、若
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