母「御用達《ごようだて》申しなともさ」
亥「有難うごぜえやす……私《わっち》は証文を書くにも書けませんが、こういう詰らねえ物を持って居りやすが、百両の抵当《かた》に編笠ということもございやすから、これを預って下せえ」
と出したのは高麗青皮《こうらいせいひ》に趙雲《ちょううん》の円金物《まるがなもの》、後藤宗乘の作でございます。
文「立派な胴乱だ」
亥「胴乱でごぜいますか」
文「これは高麗国の亀の甲だというが、類《たぐ》い稀なる物……これは名作だ、結構な物、どうしてこれを御所持でございます」
亥「それはなに、妙な、なに泥ぼっけになっていたのを拾ったのです」
文「これはお前さんの手に在《あ》っても入《い》るまい」
亥「入りませんとも」
文「抵当《かた》も何も入らぬが、これは預って置きましょう」
文治郎の手にこれが這入るのは蟠龍軒の天運の尽きで、これが友之助の手に這入って、遂に小野庄左衞門の讎《かたき》が分るというお話、鳥渡《ちょっと》一吹《いっぷく》致しまして申し上げます。
十七
文治は予《かね》て大伴の道場に斬入《きりい》るは義によっての事でございまして
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