斬込もうと致しますと、只今なれば丁度午後二時半頃、文治郎の宅の玄関の前を往ったり来たりして居《お》るのは左官の亥太郎。
森「どうしたえ」
亥「森松か大《おお》御無沙汰をした」
森「旦那がどうしたって心配《しんぺい》をしていらア、家《うち》を間違《まちげ》えたのか、往ったり来たりしている、どうも豊島町の棟梁のようだが、どうしたのかと思っていた」
亥「家《うち》を間違《まちげ》えるような訳で、大御無沙汰」
森「己《おら》の家《うち》に嫁が来た、良《い》い女だよ」
亥「冗談じゃアねえ知らしてくれゝば嗅《くせ》え鰹節《かつぶし》の一本か酢《すっ》ぺい酒の一杯《いっぺい》でも持って、旦那お芽出度《めでと》うござえやすと云って来たものを」
森「未《ま》だ本当の祝儀をしねえから何処《どこ》へも知らせねえのだ、大丈夫だ、心配《しんぺい》しなくもよろしい、祝いものは何処からも来やしねえ、表向《おもてむき》に婚礼をすりゃアお前《めえ》の所へも知らせらア」
亥「旦那に云ってくんねえ、これは詰らねえ物だがって上げてくんねえ」
森「旦那、亥太郎が来ました」
文「そうか、此方《こっち》へお通し
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