中「直ぐお暇《いとま》致します」
 藤「先ず/\宜しゅうございます」
 中「役目でござるから、家老に此の事を申さなければならぬ」
 と云って中原岡右衞門は屋敷へ帰ります。文治郎も悦びまして、母からはこれは先代|浪島文吾左衞門《なみしまぶんござえもん》が差された大小でござる、これは中原岡右衞門という人の手前もあるから遣《や》ったら宜かろうという。又文治郎の方でも持合《もちあわ》せた金がこれだけあるからやる。衣服《きもの》をお母《っか》さまの古いのをおかやにやるが宜《よ》かろうと衣類を沢山に長持に詰めてやりまして、藤原喜代之助は廿八日に松岡右京太夫の屋敷へ帰りました。文治郎は藤原が屋敷へ帰れば、我《われ》が斬死《きりじに》をして母一人になっても母の身の上は安心。大伴の家へ人を廻して様子を聞くに、今夜は兄弟酒を酌《の》んで楽しむ様子だから、今夜こそ斬入《きりい》って血の雨を降らせ、衆人の難儀を断とうという、文治郎|斬込《きりこみ》のお話に相成ります。

  十六

 大伴蟠龍軒の家に連なる者、或《あるい》は朋輩《ほうばい》などは目の寄る処へ玉と云って悪い奴ばかり寄ります。其の中に阿部忠五
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